糖化ストレス研究会では、糖化(glycation)に関する研究を推進し支援する活動を行っております。研究は基礎研究であっても応用研究や臨床研究へ、そして社会実装につながることを目指しています。
これまでの糖化ストレの研究は、品におけるメイラード反応を基盤として進化してきました。その過程で、糖化反応と酸化反応の違い、生体内の反応と食品やin vitroにおける反応との違いが少しずつ見えてくるようになりました。
臨床試験では、終末糖化産物(AGEs)を抑制する成分に関する研究発表では、数々の機能性成分の報告がありました。そこで明らかになったことは、これらの成分は耐糖能低下に伴う糖化ストレスには有効であるが、トリグリセリドやLDL-Cが高い例ではAGEs生成抑制効果が悪い傾向にあることでした。
アテローム動脈硬化の形成には酸化LDL-Cが関与すると言われています。しかし血中の酸化LDL-C値が抗酸化物質により全く下がらないという報告もありました。調べてみると酸化LDL-Cと称されている検査項目はマロンジアルデヒド結合型LDL-Cであることがわかりました。血中のマロジアルデヒド(MDA)の測定は困難でしたが、2022年に京都大学 佐藤健司教授のご尽力によりようやく測定可能となりました。
その他にも糖化ストレスに関する新たな知見は世界中から集まってきております。
ここでは糖化ストレスに関する新たな考え方を紹介します。この概念は2024年第97回生化学会シンポジウム「糖化:炎症・老化との関わり」で発表しました。
身体における糖化と酸化の違い
身体における糖化反応の主役はアルデヒドです。アルデヒドはフリーラジカルでも活性酸素でもありません。糖化ストレスはアルデヒド過剰の状態です。これに対し、身体はアルデヒド代謝酵素(ALDH, GAPDH, GOL)を防御機構として備えています。特にGAPDHは細胞質内蛋白質の10~20%を占める重要な酵素です。肝臓、腎臓、幹細胞に多く発現しています。糖化反応によって身体内の蛋白質、脂質、DNAが修飾を受けます。その結果、身体には糖化ストレスに起因する様々な疾病や退行性変化が生じます。
アルデヒドの発生源
内因性アルデヒドは炭水化物由来と脂肪酸由来が主です。グルコーススパイクを契機に同時多発的に多種類のアルデヒドが連鎖反応によって生成されます。DNAの脱メチル化によってもホルムアルデヒドが発生します。外因性アルデヒドは飲酒と喫煙が原因です。脂肪酸由来アルデヒドは最近注目されています。脂肪酸の酸化により生成されます。飲酒や喫煙によっても増大することから他のアルデヒドと脂肪酸との反応によっても生じると推測されています。
メチルグリオキサール(MGO)は炭水化物と脂肪酸の両者から生成されます。これに対して身体はグリオキサラーゼ(GLO)で防御しています。
現在は糖化ストレスと闘う時代です。
日本やアジア諸国をはじめ2型糖尿病、メタボリックシンドローム、脂質異常症などの生活習慣病が増加しております。アルコール依存症はアルデヒド生成要因です。これら疾病は直ちに自他覚症状を生じるわけではありませんが、様々な合併症や老化の原因になっています。アルデヒド代謝酵素を備えているといっても万全ではありません。ALDH, GAPDHは補因子としてNADを消費し、GLOはグルタチオンを消費します。NAD不足/枯渇はTCAサイクルの回転に支障をきたし、フマル酸増加を起こします。フマル酸は蛋白質翻訳後修飾を惹起する要警戒物質です。
これらの課題の解明には、糖化ストレス全体を広い視点からとらえて、AGEsや他に糖化ストレス修飾物や生成排泄経路の研究、測定法の確立、加齢性変化の研究、創薬、機能性素材の探索について総合的に検討することが極めて重要であると考えます。今後、糖化ストレス研究は益々重要となるでしょう。